2013年7月17日水曜日

④書き言葉 と 話し言葉 と その未来


先日、リテラシーについて研究されている方とお話する機会がありましたので、そこから思いつくことを書いてみます。

1:リテラシーと「書き言葉・話し言葉」

リテラシーとは読み、書きする能力のこと、とのこと。ITリテラシーやメディアリテラシーという言葉も生まれていますが、元来はリテラシーは読み書きする教育や能力のことです。

人間は、言葉を書くことによって蓄積型入出力のコミュニケーションを手に入れたと言われていて、数学や科学、哲学は、読み書きする力から生まれているそうです。

読み書きする能力を、手に入れると、論理的な思考や、知識のつなぎあわせが出来るそうで、現代の社会にとっては必要不可欠な能力と言えます。

人間のコミュニケーションという視点では、先程の蓄積型入出力のコミュニケーションという考え方と、発散型入出力のコミュニケーションがあります。

蓄積型が「書き言葉」(読み書き)であり、
発散型が「話し言葉」(聴き話し)です。

話し言葉は、まさに話すこと、なのでそこには感情や背景が入り交じった雑多で曖昧な情報と言えます。書き言葉は、論理的で明示的である事が特徴です。
(書き言葉を話すこと、話し言葉を書くこと、もあるので、厳密には線引きは出来ないのですが)

2:SNSの未来と言葉

TwitterFacebook等、情報発信や共有のツールが流行っています。

遡れば、情報というものが1箇所に集められ構造化されて、決まった流れで配信されていたのですが、現在は、インターネットという通信のインフラによって、情報空間と言われる「場」が形成されています。このインターネットというインフラ上で、情報は1箇所に集めるのではなく、構造化もされず、瞬間に、多方面に拡散されていきます。

そして今は、TwitterFacebookが、個人と個人を直接、双方向につなぐ「場」になっているといえます。

このような環境の変化が起きている中、書き言葉と話し言葉はどうなるのでしょうか?

インターネットは、画像や音声、動画等の扱うことが出来ますが、基本のコミュニケーションに使われるものは、書き言葉になります。書き言葉の重要性や、効率性に注目され、補完する取り組みも活発になると思います。

一方で、話し言葉、や話す場、が、重要であるという認識になっていくと考えられるのではないでしょうか?

3:対話の重要性

話し言葉は、今この瞬間に起きていることを扱います。自分の意識の中、感情、身体感覚など、混沌とした情報を言葉にしていきます。

相手の言ったことには言語だけでなく、混沌とした情報が含まれています。元気無さそうな声、嬉しそうな表情など、言語以外の情報で、書き言葉では伝わらない情報です。

人間が将来さらに高度な書き言葉ベースの情報空間を活用すればするほど、伝わらない情報が置いてけぼりになる可能性はあると思います。

OECDPISAでは、リテラシー教育が高度に徹底されている日本の学力(問題解決能力)のランキングがどんどん低下しています。一方で北欧のフィンランドのランキングは上位になっています。
*PISA
http://www.pisa.oecd.org/
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/pisa/index.htm

PISAの研究をされている白百合女子大の田島教授の話では、この違いは、対話の学習、いわゆる教育のデザインの違いであるそうです。つまり高度なリテラシー教育だけでは問題解決の力は発揮できないとも言えます。フィンランドや、PISAの調査対象ではないキューバでも、対話の学習が重要視され、教育システムに組み込まれているそうです。

対話というのは、常に問いかけ、違ったアイデアを繋ぎ、視点を変え、発想する、振る舞いであると言えます。蓄積された知識の中に正解がない場合、自ら作り出すしかありません。だからこそ問題解決能力には、蓄積型ではない発散型の対話が必要なのです。

相手の言葉にならない感情を受取るからこそ、自分の気持ちが動き、意識を刺激します。そして論理的ではない、何かの閃きが生まれるはずです。

対話は、これからの時代に求められる要素なのではないでしょうか?


4:バランスをとる

対話が重要であると言いましたが、そこはバランスも重要です。
蓄積型の書き言葉と発散型の話し言葉のバランスという意味です。

書き言葉で人類は文明を築いてきました。

ただ、書き言葉の文明は少し急ぎすぎてきたのではないでしょうか?
話し言葉は、ノロマでやっかいなもの、と思い込まされてきたのではないでしょうか?

ミクロネシアのヤップ島では、大昔からアウトリガーカヌーを建造する技術、水平線より先にある島々を認識する技術、星図や海図を貝殻を集めてつくる技術、星、波、風を読み未知の海域に対してイメージで海をわたる能力、それぞれが伝統として口伝で後継されます。つまり書き言葉ではないのです。(大阪の国立民族学博物館では、ミクロネシアの伝統航海術に関する展示がされています)

口伝の内容は現代の情報通信技術や工業技術をベースにした航海術に匹敵、時には凌駕する高度なものです。

書き言葉でないと高度な技術や理論にならないという先入観を打ち壊す事例ですね。

これからはインターネットインフラベースのコミュニケーションが増大していくと予想されますが、だからこそ話し言葉の重要性に目を向けていく必要はあると思います。

そしてそれは、人間そのものに好奇心を向けること、なのではないかと思います。


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